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逸失利益とは?交通事故における3つの逸失利益

田中弁護士

「後遺障害が残ってしまって、将来不安だな。きっと出世や昇給にも悪影響だろうな、、、」

交通事故に遭って、後遺障害が残ってしまったら、こんなふうに考えて、将来を悲観してしまう人も少なくないかもしれませんね。

しかし交通事故により後遺障害が残ってしまった場合、被害者の人が後遺障害によって失った利益を「逸失利益」として、賠償請求することができることはご存知でしょうか?

交通事故の示談金の項目の中でも、もっとも高額になる可能性が高いのが、この「逸失利益」なんです。

今回は、この後遺障害事故における逸失利益について、詳しく解説してまいります。

交通事故による3つの逸失利益とは

交通事故により、被害者に後遺障害が残った場合、「逸失利益」を損害請求することができます。

下記では、この逸失利益について、詳しく説明いたします。

逸失利益の基本的な考え方

後遺障害が残ってしまったことで、これまで通りに仕事をこなせなくなったり、職場を異動になり収入が減ることが考えられますよね。

将来得られるはずだった利益を、得られなくなる場合。「逸失利益」は、この得られなくなった将来の利益を補償する賠償です。

休業損害と類似しますが、休業損害は症状固定より前、逸失利益は症状固定後の損失の賠償となる点で、異なります。(下記参照)

逸失利益のタイミング

なお、交通事故により逸失利益が支払われるケースは下記の通りです。

  • 昇進、昇給に悪影響があった
  • 異動となり収入が減った
  • 出世に影響があった
  • 転職せざるを得なくなった
  • 傷跡により人前にでる仕事に就けなくなった
  • 体力が減り以前のように業務をこなせなくなった

交通事故における3つの逸失利益

逸失利益は

  • 後遺障害での逸失利益
  • 死亡逸失利益
  • 休業損害(広義な意味で)

3つに分類することができます。このいずれも、交通事故による労働力の低下や喪失による、将来の利益の損失に対する補償となります。

後遺障害での逸失利益とは

「後遺障害での逸失利益」とは、交通事故が原因で後遺症が残った場合に、将来得ていた筈の利益の損失を補償するものです。

こちらの金額は、実務的な手順に則り、算出されます。

詳しくは次項「逸失利益はどのように算出するのか?」にて、解説いたします。

死亡逸失利益とは

「死亡逸失利益」は、交通事故により被害者が死亡した場合に、死亡しなかったら将来得られていた筈の利益の損失を補償するものです。

こちらの算出方法についても、次項「逸失利益はどのように算出するのか?」で、解説いたします。

休業損害とは

上記でも少し述べましたが、休業損害も、広義な意味においては、逸失利益のカテゴリーに含まれます。

ただし、補償期間が短く、金額は逸失利益と比べて低額です。

逸失利益はどのように算出するのか?

それでは、逸失利益の算出方法について、詳しく解説してまいります。

逸失利益の計算方法

逸失利益は、「将来得られるはずだった利益」です。しかし、将来のこと(利益)を正確に予測できるわけではありません。

また、それを交通事故の都度、考えるとなると時間がかかってしますよね。

そこで迅速に処理できるように、あらかじめ決まった計算式を用いて算出することになっています。

逸失利益の計算式は

年収 ×労働能力喪失率×中間利息控除係数(ライプニッツ係数)

それでは、この3つの要素

  • 年収
  • 労働能力喪失率
  • 中間利息控除係数

について、下記にて詳しく解説してまいります。

収入をいくらで計算すべきか?

給与所得者の場合、基礎収入は、交通事故に遭う前の、1年間の収入額をもとに計算します。

例外として、被害者が若年だった場合に、逸失利益が不当に低くなることを防ぐために、「全年齢平均賃金」を採る場合もあります。

なお、年収の証明は重要です。原則として、源泉徴収票や確定申告書などの書類により行ないます。

ちなみに無職者や専業主婦、学生は、「賃金センサス」という、毎年厚生労働省が公表している数値を用いて算出します。

専業主婦は全年齢平均賃金かパート収入を選択する

専業主婦の場合、「賃金センサス」における全年齢平均賃金を家事労働での収入とし、パート収入がある場合は、この2つの収入のうち高額な方を選択するのが一般的です。

学生の収入の考え方は?

学生の場合、「賃金センサス」の全年齢平均賃金を収入額として算出します。

なお学生が大学進学前でもあっても、「進学の見込みあり」と認められた場合は、大卒の「賃金センサス」による基礎年収額が適用されるケースがあります。

事業所得者の収入の考え方は?

自営業者の場合は、交通事故に遭う前年度の申告所得を基準にします。

もし申告額と実収入額が違う場合、「収入の証明」を行なうことができれば、実収入額を基礎収入と認定されるケースがあります。

無職の収入の考え方は?

無職の場合は、労働能力と意欲がポイントとなります。

「就労の可能性あり」と認められれば、原則として失業前の収入を参考に算出されます。

失業前の年収が「賃金センサス」を下回る場合、かつ将来、全年齢平均賃金程度の収入は得られる筈だったと認められれば、全年齢平均賃金を収入額として採用します。

労働能力喪失率とは

「労働能力喪失率」は、後遺障害により、労働能力がどの程度失われたのか?を数値化したものです。

これは、後遺障害等級認定で受けた等級により決められます。

労働能力喪失表 (数値は、目安です)

等級

 

等級

 

等級

 

第一級

100/100

第六級

67/100

第十一級

20/100

第二級

100/100

第七級

56/100

第十二級

14/100

第三級

100/100

第八級

45/100

第十三級

9/100

第四級

92/100

第九級

35/100

第十四級

5/100

第五級

79/100

第十級

27/100

 

 

なお、これらの数値は、後遺障害の種類や、被害者の職業、実際の減収などにより変動します。

たとえば控訴になった場合、「後遺障害の具体的症状」「従事していた業務」など、別個の具体的な事情を考え合わせて、労働能力喪失率を認定することになります。

中間利息控除係数とは

逸失利益とは、将来の利益を先に受け取るものです。

ということは、それを運用したと仮定して得られる利息分(中間利息)を控除しないと、不公平になります。

分かりやすい例をいうと、

① 固定症状から5年で損失した金額が100万だとする。
② 交通事故の損害賠償により、将来5年分の100万が手に入った。
③ しかし100万円を元手に運用すれば、それ以上の利益を得ることもできる。
④ したがって5年後には100万以上の利益を得ていたかもしれない。

この④のような利益を、あらかじめ差し引くために「中間利息控除係数」が設定されています。

中間利息控除係数の決定は、「ライプニッツ係数表」を用います。

ライプニッツ係数は、逸失利益の対象期間として認められた年数「労働能力喪失期間」に応じて算出します。

なお、この労働能力喪失期間は、一般に固定症状日の年齢から67歳までの期間を設定します。

たとえば、35歳で症状固定となったら、「67 - 35 」で32となる訳です。

労働能力喪失期間32年に対応する、ライプニッツ係数は「15.8027」です。

下記が、ライプニッツ係数表です。

表:中間利息控除係数(ライプニッツ係数)

喪失期間()

ライプニッツ

係数

喪失期間()

ライプニッツ

係数

喪失期間()

ライプニッツ

係数

喪失期間()

ライプニッツ

係数

1

0.9524

18

11.6896

35

16.3742

52

18.4181

2

1.8594

19

12.0853

36

16.5469

53

18.4934

3

2.7232

20

12.4622

37

16.7113

54

18.5651

4

3.546

21

12.8212

38

16.8679

55

18.6335

5

4.3295

22

13.163

39

17.017

56

18.6985

6

5.0757

23

13.4886

40

17.1591

57

18.7605

7

5.7864

24

13.7986

41

17.2944

58

18.8195

8

6.4632

25

14.0939

42

17.4232

59

18.8758

9

7.1078

26

14.3752

43

17.5459

60

18.9293

10

7.7217

27

14.643

44

17.6628

61

18.9803

11

8.3064

28

14.8981

45

17.7741

62

19.0288

12

8.8633

29

15.1411

46

17.8801

63

19.0751

13

9.3936

30

15.3725

47

17.981

64

19.1191

14

9.8986

31

15.5928

48

18.0772

65

19.1611

15

10.3797

32

15.8027

49

18.1687

66

19.201

16

10.8378

33

16.0025

50

18.2559

67

19.2391

17

11.2741

34

16.1929

51

18.339

 

 

労働能力喪失期間とは?

上記でも述べましたが、「労働能力喪失期間」について、補足します。

一般的には、労働可能な期間として67歳くらいまで、という前提をもとに算出されます。

労働能力喪失期間の計算式

労働能力喪失期間 = 67 - 症状固定日の年齢

なお、60歳近い人が被害者だった場合、余命年数の半分程の期間を稼働可能期間と設定します。

一方、18歳以下の人の場合は、67歳までのライプニッツ係数と、18歳までのライプニッツ係数を引いた数値を用いて算出します。

たとえば15歳なら

  1. 15歳〜67歳までに対応するライプニッツ係数:18.4181
  2. 15歳〜18歳までに対応するライプニッツ係数:2.7232
  3. 18.4181 - 2.7232

→15.6949

もっとも後遺障害の病状によっては、もっと短い期間で認定されるケースもあります

一応の目安ですが、むち打ち症で後遺障害等級14級と認定された場合は5年、同様にむち打ち症の後遺障害等級12級と認定された場合は10年となることが多いです。

逸失利益の算出例

逸失利益の計算式使って、実際に金額を算出してみましょう。

「年収 × 労働能力喪失率 × 中間利息控除係数(ライプニッツ係数)」

...でしたね。

34歳、年収400万のサラリーマンの算出例

  1. 34歳、年収400万のサラリーマンが交通事故により後遺症害が残った。
  2. 910号に認定された場合
  3. 労働能力喪失率=34%
  4. 34歳のライプニッツ係数=16.003

400 × 0.34 × 16.003=21764080円が、逸失利益となります。

ただし、先に述べた通り、逸失利益は必ずしも67年までの労働能力喪失期間で算出されるとは限りません

交通事故の内容や、被害者の年齢、後遺障害の程度、将来の回復見込みによっては期間が短縮される場合がある点は、忘れないでください。

死亡事故における逸失利益の計算方法

交通事故により、被害者が死亡した場合も、後遺障害と同じく、逸失利益は支払われます。

ただし、被害者が亡くなられているため、労働能力喪失率は100%として扱われ、なおかつ生活費を控除した上で、算出されます。

死亡逸失利益は下記の計算式で行います。

基礎収入額×(1生活費控除率×就労可能年数に対応する中間利息控除

50歳、年収800万のサラリーマンの算出例

  1. 家族構成(配偶者1人、子供1人)
  2. 生活費控除率:30
  3. ライプニッツ係数:11.274
  4. 800万円×1-0.3×11.2741 = 63134960
生活費控除率とは?

被害者が死んでいるので、生きていれば支出していた筈の生活費は不要となる、という考え方のもと、算出された逸失利益から被害者の生活費相当額が控除されます。

生活費控除率は、次のように考えられています。

  1. 一家の支柱が死亡した場合:3040%
  2. 女子(主婦、独身、幼児を含む)が死亡した場合:3045
  3. 男子(独身、幼児を含む)が死亡した場合:50
学生や幼児の場合は?

交通事故により死亡した被害者が学生や幼児だった場合はどうでしょうか?

基本的には「賃金センサス」による男女別平均賃金額をもとに算出されます。

就労可能年数は、18歳から67歳までの50年間です。もちろん、生活費控除も成人と同様におこなわれます。

年金生活者の場合は?

死亡した被害者が、年金生活者の場合はどうでしょうか?

年金生活者の死亡逸失利益は下記の計算式で行います。

年金生活者の死亡逸失利益 = 年金収入 × 平均余命年数

なお、平均余命年数は、「簡易生命表」から割り出します。

ひとつ注意したいのが、遺族年金の場合は、逸失利益は認められません。

減収がなくても逸失利益は認められるの?

後遺障害の逸失利益は、その前提として、

  • 後遺障害による労働力の喪失
  • 将来得られるはずだった収入の損失がある

2点があって賠償請求を認定されるものです。

そのため、後遺障害等級が認定されたとしても、実際には減収がないという場合は、原則として逸失利益が認められません。

実際に、これを理由に任意保険会社が支払いを拒んでくる、というケースはしばしば見受けられます。

一方で、今は減収がないとしても、後遺障害が残るわけですから、将来もずっと減収がないとは限りません。

現在はたまたま周りの援助があるから上手くいっているだけかもしれませんよね。将来のことを考えれば、減収や昇給の遅れや制限などは、起こりうることです。

また、転職の場合も考慮に入れなくてはなりません。

ここで減収がない場合でも、後遺障害逸失利益は認められるのか?ということが争点になってきます。

ただし、裁判の判例を見る限り、後遺障害逸失利益が認められるかどうかは、ケースバイケースで判断が難しいのが、実際のところです。

したがって、個別の判断については、弁護士に相談することをお勧めいたします。

まとめ

研究

交通事故による逸失利益は、後遺障害等級認定の有無や程度によって、もらえる金額が大きく変動します。

また適切な金額を得るためにも、交通事故の被害者の人は、しっかり知識を身につけ、準備をしておきたいところです。

もし、逸失利益のことについて悩んでいたり、ご不安がある場合は、弁護士に相談することを検討してください。

  • 逸失利益には「後遺障害による逸失利益」「死亡逸失利益」「休業損害」の3つがある
  • 逸失利益を請求するには後遺障害等級認定が必要
  • 労働能力喪失期間がどこまで認められるかが争点となりやすい
  • 実際に減収がない場合は逸失利益が認められないケースもある

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